怖がらないで、その音トイレの故障かも

自分が大人になったと実感する瞬間はだれにでもあると思うけれど、わたしの場合、自分が子どもの頃に怖かったものが、いったいどうして怖かったのか分からなくなったとき、大人になったという気がしてくるのだった。

実はわたしは大の怖がりであり、特に子どもの頃はトイレが怖くて仕方がなかった。もちろん、トイレの花子さんじゃないけれど、そういった怪談が流行っていたというのもある。そういった「くだらない話」に一番影響を受けるのも、小学校時代の特徴のひとつなのだから仕方のないことだろう。
しかし、わたしがトイレを怖いと感じた本当に理由は、そうした幽霊などの特殊な存在によるものではなかった。わたしがトイレに感じる恐怖とは、純粋なる物理現象の「音」によるものだったのだ。

わたしの実家のトイレが水洗になったのは、わたしが小学生になったころだった。そして水洗トイレの目新しさもひと段落ついたころになると、家族のあいだでトイレの異音について話題が持ち上がるようになったのだ。わたしの姉は、水を流すときに水の流れる音とは別に「ヒュー」という高音が聞こえると言い、しかもそれは水が流れたあともしばらく続いているということだった。またわたしの兄は、やはり水を流すと排水口から「ゴボゴボ」という異音が聞こえてくるといい、さらに床下からはなにかが叩くような「コンコン」という音まですると言っていました。そしてわたしの場合はまた違っていて、たとえば台所やお風呂場で水を使っているときに、わたしがトイレで用をたして水を流すと、必ず「ゴンゴン」という、やはり棒か何かで叩かれているような音が排水口の奥の方から聞こえてくるのでした。

実はこれが水回りのトラブル兆候であるということを知ったのは、わたしもだいぶ大人になったときでした。具体的に配管の劣化や詰まりが原因と考えられるのですが、子どもの頃は幽霊の仕業かと本気で怖がっていたのを覚えています。